生徒指導困難校に勤務してきた教員が考える生徒指導で大切にしたい8つのこと

忙しい人のためのポイント

生徒指導がたいへんと言われているに高校ばかり勤務しているしばしんが、生徒指導で大切にしたいことと、参考になる本を紹介します。

大切にしたい8つのことは、以下の通り。

  1. 関係づくりを最優先させよ
  2. 積極的な生徒指導を心がけよ
  3. 教員の役割分担を意識せよ
  4. 毅然とした指導をせよ
  5. 生徒に媚びるな
  6. 細かく記録をとれ
  7. すぐに変わると思うな
  8. 人間性を高める努力をし続けよ

生徒指導困難校とは?

ぼくは教員になってから、いわゆる生徒指導困難校と呼ばれる高等学校に勤務してきました。

生徒指導困難校とは、読んで字のごとく、

生徒指導がたいへんな学校
のことです。

具体的に生徒指導がたいへんだというのは、概ね次のような状況を指します。

  1. いわゆるやんちゃで、指導が入りにくい生徒が多くいる
  2. 発達障害など、特別な支援を必要とする生徒が多くいる
  3. 学力に困難さや、学習性無力感を抱えている生徒が多くいる

これらは、複数該当する生徒もいます。

また、別段問題行動が多くあるわけではないものの、対人コミュニケーションが苦手であったり、社会性が低い生徒も、実際には指導が難しい場合が多いです。

そもそも生徒指導ってなんなの?

とはいえ生徒指導生徒指導というけれど、そもそも生徒指導とはなんなのでしょう?

文部科学省の『生徒指導提要』第1章第1節の冒頭は、まさに生徒指導の定義を説明しています。

生徒指導とは、一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことです。すなわち、生徒指導は、すべての児童生徒のそれぞれの人格のよりよき発達を目指すとともに、学校生活がすべての児童生徒にとって有意義で興味深く、充実したものになることを目指しています。

また、国立教育政策研究所が、『生徒指導って、何?』というリーフレットを出しており、そこには次のように書いてあります。

  • 児童生徒が自発的かつ主体的に自己を成長させていく過程を、支援する。
  • 集団や社会の一員として自己実現を図っていく大人へと育つよう、促す。

つまり、「生徒指導」とは、一般的にイメージされるような、悪いことをしたり、学校のルールを破ったりしたときに指導されるようなもののことだけを指すわけではないのです。

生徒の「社会的資質や行動力を高める」ために、「支援」したり、「促」したりする指導全般を指します。

MEMO
前者のような、問題行動が起こってから対処するような生徒指導を、消極的な生徒指導といい、後者のような、普段から地道に「それぞれの人格のよりよき発達を目指」して行われる生徒指導のことを、積極的な生徒指導と言ったりもします。

生徒指導をするときに大切にしたい8つのポイント

だいじなのは、必然的にネガティブな言葉かけが多くなる消極的な生徒指導ではなく、ポジティブな言葉がけを中心に、生徒の自己肯定感を高めるような積極的な生徒指導です。

では生徒指導をうまく成立させるために、ぼくが心がけているポイント、コツのようなものをこれから簡単に説明していきましょう。

1. 関係づくりを最優先させよ

生徒指導を行うにあたって、もっとも大切なことは、何よりも生徒との関係づくりです。

生徒と教員という立場の違いがあるからと言って、教員の言うことならなんでも聞くわけではありません。(当たり前ですけど)

例えば、赴任してきたばかりの先生が、いくらベテランだからと言って、なんの関係性もないのに、「これをしないとダメだ!」とか「こんなことしちゃダメだよ」とか言われても素直に聞き入れられないのではないでしょうか。

何偉そうに言ってんだこいつ、となりますよね、なりますね。はい。

生徒だって同じです。

信頼している先生、また、そこまではいかないまでも、関係性がある程度築かれている先生からの話なら聞くかもしれません。

しかし、ぜんぜん関係のない教員から注意されても、「何言ってんだこのおっさん」で終わってしまう可能性の方が高いのです。

まず大切なのは、

指導が入るような関係性(信頼関係)を築くこと

です。

ではそのために、どうすればいいのでしょうか?

例えば小栗正幸氏は、受容でも、説諭でもなく、肯定的なフィードバックを行うことで、まずは指導は入る状態を作ることが重要だと述べています。

つまり、生徒が、この先生の話なら聞いてもいいな、と思えるような人間関係を「肯定的なフィードバック」によって作るのが先決ということです。

その後、一般的な傾聴・受容による指導、あるいは説諭による指導を行えるようになる、ということです。

「肯定的なフィードバック」の具体的な方法については、この本がかなり読みやすく、職員室に置いておいて損はないと思います。

また、小栗氏の本はどれもとても参考になるのですが、それまでの本の集大成的な次の本も、理論的なことや、実践例が豊富でとてもおすすめです。

2. 積極的な生徒指導を心がけよ

積極的な生徒指導とは、前述したように、問題行動が起こってから対処するのではなく、生徒の自己肯定感や、生徒自身の自己指導能力を日頃から高めておいて、そもそも問題行動を起こさないようにする「開発的・予防的な生徒指導とも言われるもの」です。

具体的には、普段から授業において、いわゆる「生徒指導の三機能」を生かした授業づくりを行うことが、積極的な生徒指導のひとつの方法です。

MEMO
ちなみに、生徒指導の三機能とは、
  1. 自己決定の場を与える:自分で決めて、実行する場面をつくる
  2. 自己存在感を与える:自分が価値ある人間だと思えるように、肯定的な評価をしたり、個に応じたフィードバックを与えてあげる
  3. 共感的人間関係を育成する:クラスの仲間同士や教員と認めえる関係性をつくる

のことです。

これらは授業に効果的に取り入れることで、積極的な生徒指導につながります。

また、日常生活の中でのポジティブな声かけや、「先生は自分のことを気にしてくれている」と思えるような接し方が重要です。

例えばPBIS(Positive Behavioral Interventions and Supports:ポジティブな行動介入と支援)といった方法もありますし、昔から行われている一筆箋を用いた方法などがあります。

学校で一筆箋(せん)の利用をオススメする理由と、実際に使ってみてわかった4つのメリット

ぼくが参考になったなあ、と思うのは次のような本でした。

上の本2つは、具体的な事例も多いので、イメージがしやすいです。

3. 教員の役割分担を意識せよ

チーム学校」という言葉が流行っていますが、教員集団というのは組織です。

生徒指導でも、できるだけ組織で対応していくのが理想です。

特に、生徒指導は得意不得意が分かれる分野です。生徒に毅然として指導することができる、というのも、生徒指導を行う上で重要なことですが、それが苦手な先生もいらっしゃいます。

だいじなことは、お互いにサポートしあえるということです。

中学校の国語教師であった寺崎賢一氏が編集している『THE 生徒指導』では、生徒指導における教員の役割分担のモデルとして、「M・F・Cチーム」というモデルを提案しています。

「M・F・C」とは、

  • M (マザー教師):母親のように、受容的な態度で指導をする教員
  • F (ファザー教師):父親のように、毅然とした態度で指導をする教員
  • C (チャイルド教師):生徒にとって兄や姉のような態度で指導をする教員
のことです。

教員が、それぞれの適性に合った指導の仕方を、それぞれの役割に応じて行っていくことが推奨され、状況や必要に合わせてF教員が指導したり、C教員が指導したり、F教員が指導したりするモデルです。

ここまでしっかりと役割を分担することは難しいですが、なんにせよ、生徒指導が苦手だという意識をもっている先生も、自分にできることをすればいい、という点で、優れたモデルだと思います。

また、自分の役割を自覚しておけば、「私はこれをしますから、あなたはこれをしてください」といった連携が取りやすくなります。

これも詳しくは、以下の本を参照してください。こちらはいろんな先生が書かれており、かつ、各項目も見開きで1項目、といった具合に説明されているので、とても読みやすいです。

4. 毅然とした指導をせよ

4つめのポイントは、厳しい指導ではなく、「毅然とした指導」をすべきだ、ということです。

毅然とした指導とは、怒鳴って生徒に恐怖感を与えるような指導ではありません。

怒鳴るとか、叱りとばすとか、そういうことではなくて、

ダメなものはダメだということを、ブレずに指導する

ということです。

というのも、ブレがある指導では、生徒からの信頼を失うことになりかねないからです。

これは、小さなことであっても許さない、ということでもあります。

例えば、生徒同士であれ、生徒が教員に言う場合であれ、「死ね」といった暴言は決して許してはいけません。

なんとなく、友達同士でふざけあっているなかで、「うるせーな死ねよ」などと言っているのを聞く場合があります。

このようなときに、「まあ友達同士がふざけているだけだし」などど甘く考えて、いちいち注意しない場合があるかもしれません。

にも関わらず、別のとき、例えば学年集会などで、いじめの話などをするときに、「死ねなんて言葉を言ってはいけない」と指導するとしたら、それは指導がブレているのです。

友達同士でふざけているのを見ても、それが先生の前で言ったのであれば、必ず一言でも声をかけるべきだと思います。別に怒ったり、怒鳴ったりするのではなく、冷静に「友達に死ねなんて言ってはいけない」と一言言えばいいだけです。

その一言をブレずに言えるかが、毅然とした指導の第一歩だと思います。

毅然とした指導といえば、シリーズで出ているこの本は、かなりたくさん事例が載っていてめちゃくちゃ参考になります。ぜひ辞典代わりに使えるように、学校に置いておきたいシリーズです。

副題を見て、どれか一冊でも手にとってぱらぱらと眺めてみてください。きっと、「これならうちの学校でもできるかも」と思えるような実践があるはずです。

5. 生徒に媚びるな

教員は多くの場合、子どもが好きです。

その子どもたちに嫌われたくない、と思うのは自然な気持ちです。

ぼくだって、わざわざ嫌われたいとは思いません。

しかし、過度に好かれようとして媚びた態度で生徒と接するのは避けなければなりません。

生徒は敏感に気づきます。ああ、この先生は、自分に好かれようと思っているんだなあ、と思います。そして、「それならこれくらいしても許されるだろう」と思うかもしれません。

だいじなのは、「毅然とした指導」です。

ブレない指導をするためには、生徒に媚びてはいけません。

そもそも、媚びるという態度は、悪い意味で、対等な関係性ではないでしょう。

生徒は、大人よりもずっと感受性が高いです。この人は本当に自分を認めようとしているわけではないな、自分が好かれたいだけなんだな、などとすぐに気づきます。

そのような状況は、生徒にとって、よい状況だとは言えません。

本当に自分のことを考えてくれていると、思われていないという点では、その先生にとっても長い目で見るとよいことではありません。

またそうした状況が日常化すると、ますます指導しにくい関係になっていきます。

ぼくはかなり細かなことにも厳しいタイプで、大人しそうな生徒であっても、優等生であっても、絶対に注意します。

そのため、最初のうちは、めちゃくちゃウザがられる場合が多いです。

「あの先生、いちいち注意してきてウザい」と言う話を、間接的に聞いたことは数えきれないくらいあります。

しかし、その状況がずっと続いたことはありません。結果的には、最後まで嫌われたことはないと思います。(もしかするとものすごく嫌われているかもしれませんけれど)

何より、ぼくがいない場で、他の先生に対して「しばしん先生は好きだ」と言ってくれる生徒も多くいます。(特にやんちゃな子に多いですけれど)

結局、筋が通った指導をしている方が、好かれるのだと思っています。

ぼくの経験談
以前勤めていた学校で、こんなことがありました。

入学当初から、手がつけられない問題児がいました。

その子は、中学校の頃から地元では有名で、先生に対して、というよりも大人に対する不信感が極めて強く、1年間トラブルを起こしてばかりでした。

2年生になったとき、その子をぼくが担任しました。

担任して1週間もしないうちに、服装指導で他の先生に注意され、逆ギレして部屋を出ていき、授業にももどってこず、帰宅してしまうような状態でした。

その後も問題を起こすことは多かったのですが、だんだんと落ち着いてきて、とうとう3年生になったとき、ぼくがいない職員室で、生徒指導部長にこんな話をしていたそうです。

他の先生はめんどくさがって、ほとんど俺に対していろいろ言ってこなかったけど、しばしん先生は細かいことも注意してきた。

ちょっとワックスをつけてきただけでも、「お前ワックスつけちゃダメって知ってるだろ? 明日は絶対付けてくるなよ」と言われた。

他の先生には何も言われなかったのに。

ほんとにうちの担任はちゃんとしてる

ぼくはこの言葉を伝え聞いて、本当に嬉しかったのですが、それはぼくが、媚びず、毅然とした指導を行ってきた結果だったと思っています。

6. 細かく記録をとれ

生徒指導の聞き取りを行ったり、保護者との連携を行ったりする上で、極めて重要なこと、それが

いちいちメモを取って記録に残しておくこと

です。

積極的な生徒指導を続けていても、生徒が問題行動を起こすことはあります。問題行動があった時などに、生徒から聞き取りを行ったり、保護者と連携したりした内容は、すべて必ず記録にとっておかなければなりません。

記録は簡単なものでもよいのですが、少なくとも

  • いつ?(問題発生の日時や、記録した日時)
  • だれが?(その事案に関わった人、聞き取りをした人、電話をした相手など)
  • 何を?(聞き取りの内容や、電話の内容)

は記録しておくべきです。

注意
もちろん、起こった事案に関する聞き取りをする場合には、「どこで?」などの情報も必要です。

上の項目は、電話連絡の場合や、問い合わせがあった場合などに共通する項目として挙げています。

必要に応じて、項目は追加してください。

記録はエクセルのシートなどに、以下のようにまとめておくとよいと思います。

日時だれがだれに内容
10月1日しばしんAくん母
  • 今日起こった事案についての報告。
  • 明日以降の特別な指導の内容についても伝達済み。
10月2日Aくん母しばしん
  • 昨日の件で不明なことがあるから教えて欲しいとのこと。
  • いくつかには電話にて返答。
  • 電話では答えきれない部分あり。
  • 重要な話なので、来校してもらい、お話しすることに。
  • 管理職了解済み。
・・・・・・・・・・・・

あくまで例ですので、見やすい形で記録しておきましょう。

大切なのは、何か他の先生や保護者、管理職から案件について尋ねられた時に、すぐに「いつ、どこで、だれが、どんなふうに対応したのか」といった情報が正確に出せるようにすることです。

これによって、言った言わないの問題や、先生のあいだでもっている情報の寡多があることを防止できます。

7. すぐに変わると思うな

ぼくの好きな言葉に、

人は、人によって変えられたくない

という言葉があります。

ぼくもすごく共感します。人は、自分で変わったと思いたいのだと思います。人に変えられた、とは思いたくないものです。

生徒指導は、いちおうは生徒を良い方向に導こうとしています。そのために指導を行います。

しかし、一度言われて変われるほど、人は簡単ではありません。まして人に言われたことで変われるなんて、思わない方がよいでしょう。

それこそなんどもなんども、気が遠くなるくらいなんども繰り返し指導して、1年以上かかって、やっと変わる、という場合がほとんどです。

だからすぐに結果が出なくても、残念がったり、無力感に苛まれたりする必要はありません。

ほんとはものすごーーーーーくちょっとずつ、変化はしているかもしれないのです。

細かな変化に気を配って、完璧を求めず、ゆっくり粘り強く指導していきましょう。

8. 人間性を高める努力をし続けよ

生徒は大人より鋭く、感受性が豊かだという話をしました。

したがって、うわべだけ取り繕っていても、生徒には見抜かれます。

とにかく言行一致。そして率先垂範です。

言ったことはやる模範となるような行動をする。これに尽きます。

生徒たちを良い方向へと導こうと思うのなら、まず自分が努力を怠ってはならないということです。

先に挙げた『THE 生徒指導』の編者である寺崎賢一氏は、『生徒指導入門』という本を書いています。

おしゃれな表紙ですが、めちゃくちゃやばい本です。参考文献リストに、『論語』や、カントが挙げられています。

MEMO

(わかる人にしかわからないと思いますが)

これはセクシュアリティについて勉強しようと思って手にとってしまったのが田崎英明『ジェンダー/セクシュアリティ』だった、くらい、「入門書…なのか…?」と思ってしまうような本です。(ちなみに『ジェンダー/セクシュアリティ』もすごく面白いいい本ですよ!)

寺崎氏は、自らの徳性を磨くために、朝4時に起床し、近所の神社まで走り、階段ダッシュをし、筋トレをし、冷水を浴び、読書して、それから仕事に行くという、正直ぜったいに真似できないし真似しようとも思わないことをずっと続けているような超ストイックな人です。

しかし、ここまではしなくとも、日々読書をし、肉体と精神を鍛え、自らを高めて行くことは、決して忘れてはいけないのだと思います。

どうやって自らの徳性を上げていくのか、その具体的な方法などについては、とりあえず『生徒指導入門』を読んでみてください。

まとめ

ということでまとめです。

生徒指導をする上で、大切にしたいポイントは、

  1. 関係づくりを最優先させよ
  2. 積極的な生徒指導を心がけよ
  3. 教員の役割分担を意識せよ
  4. 毅然とした指導をせよ
  5. 生徒に媚びるな
  6. 細かく記録をとれ
  7. すぐに変わると思うな
  8. 人間性を高める努力をし続けよ

です。

特に消極的な生徒指導は、精神的にも肉体的にもきつい仕事です。

たいへんな思いをされている先生方が、全国にたくさんいると思います。

ぼくも、他の先生方と協力して、余裕をもって指導していきたいと思います。

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