一斉授業を成立させるために、まずは身につけておきたいこと

忙しい人のためのポイント

一斉授業を成立させるために、次のサイクルを回せるようになろう。

発問 → 指示 → 確認

この流れを意識して、授業で使えるようになるだけで、一斉授業はうまくなるよ!

一斉授業って?

一斉授業ってのが、指導要領改訂とかに伴って、いわゆる〈アクティブ・ラーニング〉(AL)と対比されてなにやらディスられていることが多いらしい。

で、それに対して反論するときに、このAL vs. 一斉授業という図式を保ったまま、「一斉授業もだいじだ!」という人も最近よく見かけるんですよね。

でも、そもそも一斉授業って、ALと対比されるような概念なのだろうか、という疑問があります。

ぼくが観測している範囲だけなので、なんとも言えないのですが、AL推進派も、AL否定派も、わりと簡単な図式的な整理に収まっていて、なんとなく、一斉授業=講義、というのを素朴に前提化しているような気がして違和感を感じるんですよね。

そもそも

授業 = lesson

講義 = lecture

であって、授業と講義は同じではないはずですから、一斉授業と言ったときに〈講義〉を思い浮かべてしまうこと自体が、ちょっとした誤謬なのではないかと思うのです。

むしろ、ALのある範囲は、一斉授業で行われると思います。

したがって、一斉授業 vs. ALという図式自体を壊して、実践をしていったほうが建設的なんじゃないかなーと思っています。

一斉授業は特殊なもの

しかし、一斉授業を成立させるというのは、はっきり言って特殊な技能を必要とすることです。

40人程度に対して、一斉にある学習活動をさせ、ある知識や技能を理解させたり習得させたりするなどということは、日常で行われるどんな活動とも異なります。

たしかに、プレゼンテーションや講演、スピーチなど、多数の人を相手に話したり、説明したりすることはあるかもしれません。

しかし授業は、話をしているだけではなく、例えば問題を解かせたり、基本的な手続きの練習をさせたりすることも含まれます

人に何かをさせるというのは簡単なことではありません。

授業には、その科目を苦手としている生徒もいるのですから、全員の学力保障をするためには、苦手意識や学習に対する嫌悪感をもっている生徒にも、学習活動に参加させる必要があります。

これは実際には進学校でもたいへんなことですし、まして生徒指導困難校であればなおさらです。

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一斉授業をする技能というのは、普通に生きていれば必要がない技能なのです。学校の先生にならなければね。

しかし、だからこそ、それが教師の専門性、ということに繋がるのではないかとぼくは思うのです。

一斉授業を成立させるために、まずできるようになりたいこと

さて、そんな一斉授業をどうやって成立させればいいのでしょうか。

ぼく個人がまずできるようになったほうがよいと思うことはこれです。

発問 → 指示 → 確認 の流れを作る

とにかくこれです。これに尽きると思います。

MEMO
もちろんこれはぼく個人の意見です。

しかし、ぼくが今まで関わってきた後輩の先生方で、ぼくが不遜ながらもこのことをアドバイスして、ちゃんと実践した先生方の授業は、ものすごく変わっていきました。

とはいえ、絶対ではありません。誰かの参考になれば、それでよいと思います。

発問を舐めてはいけない

発問に関しては、賛否ありますし、またどのような発問がよいのか、といったことに関しても、いろんな人たちが喧々諤々しています。

しかし、ぼくは教員になったばかりの先生は、まず発問を授業中にできるようになることが最優先だと考えています。

MEMO
一般に、授業中に先生が発する指導のための言葉(指導言)は、

発問:生徒への問いの言葉

指示:生徒に行動させるための言葉

説明:授業内容についての説明や、生徒の発言の補足をする言葉

の3つに分けられます。

この中でどれが重要なのか、という問題については、「発問だ!」と言う人もいれば、「いやいや説明がだいじだ!」という人もいます。

このようなことを理解した上で、ぼくは若手の先生方に、「まずは発問」と言いたいのです。

ぼくたちは、問いによって、考え始めます。

問いこそが思考の出発点なのです。

例えば、なぜテレビのクイズ番組はなくならないのでしょうか?

視聴率の関係などで、良質なコント番組はほとんど作られなくなってしまいました。

歌番組も、どんどん減ってきているように思います。

しかしクイズ番組は、継続的に制作されつづけています。

なぜなのでしょう?

それはおそらく、人間は問いが大好きだからだと思います。

クイズ番組を見ていると、見ているぼくは別になんの得もしないのに、問題を出されたら答えを考え始めてしまいます。

逆に言えば、問われることで、考え始めることができるわけです。

また、答えがわからなかったり、外れたりしたら悔しいし、当たれば嬉しいものです。

つまり、問いは、意欲も喚起するのです。

こんなメリットばかりの問いを、授業で使わない手はありません。

千葉大学教育学部名誉教授である宇佐美寛氏の言葉を借りるなら、「授業内容とは疑問文の集積である」のですから。

発問をしよう。重要なことは、

なにか説明したくなったら、とにかく発問をしてみる

ということです。

とりあえず、発問をしてみる

最初のステップは、とりあえず発問をしてみる、ということです。

説明がしたくなったら、まずは発問をしてみましょう。

例えば古文文法を扱う授業では、この意識を持たなければ説明に終始してしまう可能性が高いでしょう。

用言の活用、そうですね、動詞の活用の種類を扱うときにも、

説明の例
中学校で学習した口語文法での動詞の活用は5種類ありましたね。

古文文法では、活用の種類が9種類あります。

と説明するのではなく、

発問の例
  • 中学校で学習した口語文法での動詞の活用の種類は何種類ありましたか?
  • 古文の動詞の活用の種類は何種類ありますか?

と聞いてみるのです。

そんなのわかるはずない、と思われるかもしれませんが、とりあえず問いを発してみることがだいじです。

とにかく発問をする。とりあえず発問をする。

これだけで授業が変わります。

発問の質は、とりあえず考えなくてもいいと思います。

とりあえず、であっても注意したいことは

発問の質はとりあえず考えなくてもいい、と書きました。

ただ、注意してほしいことがあります。

それは、

発問を途中で言い換えたり、言い直したりしない

ことです。

これは教育実習生や、教員になりたての先生がよくすることなのですが、発問を投げかけたとき、すぐに言葉を変えて言い直したり、言い換えたりしようとしてはいけません。

その先生としては、できるだけ生徒にわかりやすいように、という配慮なのでしょうが、言葉が変わることで、何が問われているのかわからなくなる生徒もいます

最初のうちは難しいかもしれませんが、自分にルールを課して、それを実践することは、技術を向上させる上で重要です。

もしも、生徒のほとんどが何を聞かれているのかわからない様子なら、「ごめん、今の問いは忘れて」と言って、言い直しましょう。

そのときも、言い直した後は、それ以上言い換えたりしないようにしましょう。

MEMO
この、「言い換えない」というルールは、生徒のためでもあるのですが、先生が授業技術を向上させる上でも重要です
なぜなら、「言い換えない」ことによって、その問い方がよかったのかどうかを振り返ることができるからです。
何度も言い換えてしまうと、結局わからない生徒が出てきたときに、「どの発問がわかりにくかったのだろうか?」とか、「どのように言えばわかったのだろうか?」といった振り返りが難しくなります。
しかし、言い換えなければ、「この聞き方では、このように生徒は受け止めるのだな。じゃあ、今度はこう聞くことにしょう」といったように、改善することができます。
この改善を通して、発問の質の部分はある程度向上していきます。

発問のあとには、必ず具体的な作業指示をする

とはいえここまでなら、よく言われることかもしれません。

授業で発問を一回もしない高校の先生というのは稀だと思いますし、小学校や中学校ならなおさらです。

しかし、発問をしただけでは、生徒は何をすればいいのかわかりません。

発問された生徒には

今聞かれたことは、どうすればいいのだろうか?

答えを言えってことなのか?

手を挙げて発表するのか?

ノートに答えを書くのか?

教科書から探すのか?

他の生徒と確認してもいいのか?

など、無数の選択肢があります。

その中から、生徒が先生の求めているものを〈忖度〉して、行動させる、というのは、ぼくは良いことであると思いません。

だからこそ、発問をしたら、その発問に対して

具体的にどうやって問いに答えればいいのか

を明確に指示してあげる必要があります。

指示の方法は、例えば、

  • わかった人は手を挙げてください
  • 答えをノートに書いてください
  • 隣の人と確認してください
  • 教科書から探して線を引いてください

などがあるでしょう。

先程の、

発問の例

古文の動詞の活用の種類は何種類ありますか?

なら、

指示の例
  • 文法書の○○ページの表を見て、数えてください。
  • 教科書の○○ページの説明から、探して線を引いてください。

といった指示が考えられます。

MEMO
これはAL推進派の言う〈外化〉をさせる、ということです。
例えばAL推進の先陣を切って突っ走っている溝上慎一氏は、まずは今日の授業の内容を最後にノートにまとめさせるなどの活動をするだけでもいいから、とにかく理解したことなどを自分の外に出す(外化する)ことがだいじです、といったことを何度も言っていますしね。

ほら、一斉授業とALの境目が溶けていっているでしょ?

とにかく生徒たちに、

問いに対して、どんな行動をとればいいのかを明確にする

ために、必ず、どんな小さな発問であっても、具体的な作業指示を入れるようにしてみましょう。

発問をするだけでは、一部の生徒だけが考えて、その他の生徒はまったく考えていない、という状況に陥りがちです。

誰かを指名するにしても、発問し、作業させた後で行わなければ、指名された生徒だけが考えればいい、という状況になってしまいかねません。

全員参加を保障するためにも、発問の後の具体的な作業指示は外せないのです。

MEMO
有名な国語実践家である野口芳宏氏は、全員参加を保障するための方法として、○✕方式、というものを取り入れています。

これは、発問に対する自分の考えを、○か✕かでノートなどに書かせる方法です。

マルバツなので、発問は、ある命題に対して「賛成」か「反対」かといった形式を取ります。

全員がマルバツを書いた上で、その理由を書かせます。

この、まずは簡単な作業(この例なら○か✕をノートに書くだけ)をした上で、その理由を考えさせる、という手法は、かなり汎用性が高く、ぼくもよく使っています。

野口氏の著作は、どれも実践に基づいていて非常に参考になります。

ぜひ国語科の先生には一読を勧めます。

作業を行ったかを確認する

最後に、発問に対する具体的な作業が行えたかを、確認します。

これは、場合によっては答えの確認だけになることもあります。

授業者は、生徒たちがきちんと授業に参加しているかを評価する必要があります。

ということは、作業の進捗状況や結果を確認しなければなりません。

確認の方法には、

  • まだ作業が完了していない生徒に挙手させる
  • 隣同士で確認させる
  • グループで確認させる
  • 机間指導(授業中に生徒の席をまわって指導する)で確認する
  • 指名して発表させる

などがあるでしょう。

この確認をすることで、必ず発問に対して思考し、作業しなければならない、と生徒たちに思わせることができます。

また、きちんと授業に参加していることを、しっかりと褒めることもできます

まとめ

というわけで、どうすれば授業がうまくいくのだろうという悩みを抱えている若手の先生方。

発問 → 指示 → 確認 のサイクルを回す

ちょっと試してみてください。

おまけ

ぼくが考える〈一斉授業〉が難しいと感じる原因は、こんな感じです。

誰かの参考になれば幸せです。

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