目次
この記事で言いたいことをまとめておくと
引用といった基礎的・基本的な技能を指導する際にも、
なぞる→写す→自分でやってみる
という流れはまじ有用だったよ!
引用できないと困る!
国語科として、「引用」の指導をずっとしてきたんですね。
それは例えばレポートの書き方や論文の書き方本みたいなのを読んでいると、必ずと言っていいほど「引用まじだいじだからちゃんとやれやああああああああ!」(大意)ということが書いてあるわけで、それを中等教育段階でやっておかなければならないでしょ、と思ってきたからなのです。
あとは宇佐美寛氏が、「引用無きところ印象はびこる」という金言を何度も書いているのですが、それにものすごく共感するからです。
「それってこういうことでしょ?」みたいな無理やりな要約は、相手にとって失礼だし、「いやいやそんなこと言ってねえよ!」となったりして、完全に「コミュニケーション能力」の問題として看過できない話だと思うんですよね。
また、新学習指導要領でも、「引用」についてがっつり言及されるようになりました。
「がっつり言及」というのは、例えば『現代の国語』の「知識及び技能」の指導事項のなかに、「がっつり」こんな風に書いてあるってことです。
引用の仕方や出典の示し方,それらの必要性について理解を深め使うこと。
ちなみに、現行の学習指導要領では、『国語総合』の「書くこと」の「言語活動例」のなかにかろうじて「引用」が扱われ、次のように解説されていました。
なお,引用の際には,かぎ(「」)でくくるなど引用箇所がよく分かるようにすること,引用する文章が適切な量であることなどとともに,ここに示したように「出典を明示」することが,著作権を尊重し保護することになる。
実際、ざっくり現行と新しい学習指導要領解説のpdfで検索してみると、現行の学習指導要領解説では「引用」という語が11回しか出ないのに対して、新しい解説ではなんと57回も出現するのです。
5倍!!!!!!
つまり国としても、「引用くらいできんといけんでほんま」と考えているわけですね。
要は、小中学校の指導で、「引用」はできるようになっている、という建前だったけど、でも大学とか入ってくるやつらみてたらぜんぜん引用できねえから困る!みたいな話で、高校にも「引用」の指導が入って来たのではないかなあ、なんて思います。まあこれは勝手な推測です。
「引用」の指導はけっこうむずい
しかしこの「引用」の指導というの、実際にやってみるとけっこうめんどうなんですよねえ。
小論文の指導とかしているときに、初めて引用とか聞いたわあ、みたいなポカーンとした生徒の顔を見ながら、いいか引用ってのはな、と解説し、さあやってみろ、と野に放って、で、書いたものを見てみると、ぜんぜん引用できてねえじゃねえか「」でくくってもねえしそもそも漢字だったのが勝手にひらがなに変えてあるしどういうことなんだこら、みたいにあらぶっちゃうこともしばしば。
しかも小論文指導の場合には、まあ、
- 「」でくくるんだぞ
- 勝手に字の表記を変えるなよ
の2点くらいを押さえておけばよいのですが、実際に例えば総合的な学習の時間なんかで論文とか書かせようとすれば、出典とかあって、指導事項はどんどん増えていくのです。
困る。
引用って、けっこうむずいのね、教えるの、とか、大学の先生方のご努力に敬意を表しつつ、でもやっぱ高校でしっかり引用くらいできるようにさせておきたいよねえ、なんて思って、いろいろやってみてるんですが、うまくいった実践を紹介しておこうと思います。
とりあえずやらせてみたら
とりあえず、引用させてみようと思って、引用の方法についてざっくりプリントにまとめ、説明した。
で、付箋を配って、なんでもいいから今手元にある教科書以外の本から引用して付箋に書きなさい、と指示しました。出典も明記すること、みたいにして。
そしたら大混乱です。
「意味がわからん」の大合唱。「複雑すぎる!」とか。
そうか?
でもこれは、ぼくが今まで論文とか書く中で、何度も何度も引用をしてきたことによって、いつのまにか自然とできるようになったから「複雑」だと考えていないだけなのだろう、と思い直し、反省し、もうちょっとちゃんと指導してみることにしました。
指導事項をまとめる
まず指導すべきことをリスト化しました。問題は分割せよ、です。
とりあえず次のようなことを教えたらいいのではないかと整理しました。
- 引用部は「」でくくる
- 引用部の表記はそのままにしておく
- 出典は()でくくる
- 出典は(著者名『書名』出版社名、刊行年、ページ)のように書く
- 出版社名や刊行年は、奥付を見るとわかる
- 引用の意義(引用はなぜ必要なのか)
とりあえずです。
もちろん、「ママ」とか、長い引用の場合のインデントとか、ページが数ページにわたるときの「pp.」とか、直前に引用した出典と同じ場合には「同書」としてよいとか、出典は長い文章のときには脚注を使うとか、そういうのもある。
あるんですが、とりあえず、最低限、「」でくくって表記を変えずに引用できて、出典も書ければいいかなって。
とりあえずですよ。これだけでも生徒たちにとっては複雑だったのですから。
指導方法を考える
授業は、生徒の学習活動によって作られます。
したがって、どのような教材で、どのような作業をさせ、どのような順番で資料を与え、どのように理解させるかを考えることが授業づくりです。
できるだけ説明をするのではなくて、生徒がやりながら理解していけるように作らないといけないなあと、失敗から考えていました。
ひとまず、⑥の引用の意義については、説明するしかなさそうです。
というか、ぼくにはいい方法が思いつきませんでした。
いくつか引用しているテキストと、引用がないテキストを資料として読ませて、引用があることによってどんな効果が生まれるのか、なぜ引用が重要なのかを生徒に考えさせる、みたいな学習活動くらい。
しかしこれはけっこう時間もかかるし、とりあえず技能としての引用を指導したかったので、⑥の部分についてはざっと終わらせることにしました。
とりあえずプリントをつくって、引用の意義として、
- それが自分の意見なのか、人の意見なのかをはっきりとわけるため(剽窃の禁止)
- 本当にその文章や、内容がその本に書いてあるのかを他の人が確かめられるようにするため(反証可能性の担保)
- 他の人の意見を大切にするため(人権意識)
の3点にまとめて、引用の指導が終わった後に生徒に読ませることにしました。
さて、問題は①~⑤です。ちなみに、授業時間は10分程度を想定していました。ぼくの授業はいろいろやるので。
とりあえず解説プリントのようなものを作ってみた
ひとまず、①~⑤についてまとめた解説プリントを作成しました。といっても、これはあの失敗した授業のときにすでに作成していたものです。
だいたい次のようなプリントです。
引用の方法
次の点を必ず守る
①引用する部分は必ず「」でくくる。
例:引用は、「こんなふうに鍵括弧でくくる」ことが必要です。
②引用する場合は必ず丸写しする。勝手に表記を変えない。
③引用したら必ず()でくくって出典を書く。
例:「こんなふうに鍵括弧でくくる」(著者名『書名』出版社名、刊行年、ページ)
ヒント:出版社名や、刊行年は、本の最後の方のページに書いてあります。このページのことを「奥付」といいます。
しかしこれを配って説明するのではだめでした。生徒が作業する必要があったのです。
そこで、
実際にサンプルとして引用する箇所が書かれたページと奥付の画像を貼り付けて、そこから引用する練習をさせるプリントをつくろう
と考えました。
ポイントはなぞる、写す、自力で書く
ここでぼくが気を付けたのは、
スモールステップで指導する
ということです。
どういうことか。
具体的には、プリントの構成はほとんど変えずに、
①なぞるだけでよいプリント
②自分で画像から引用しなければならないプリント
③自分が持っている本から引用しなければならないプリント
の3枚を作り、1枚ずつさせていく、ということです。
漢字の学習などでよく用いられる
なぞる→写す→自力で書く
という流れを意識して作ったわけです。
プリントの構成
プリントの構成は、こんな感じでした。
1枚目のプリントでは、引用部に傍線が書いてあり、ページ数もわかる画像と、奥付の画像を載せた左に四角で囲んだ枠を作りました。その中に、薄字で「」でくくられた引用文と、()でくくられた出典を書いておきました。
2枚目のプリントでは、1枚目とは違う本ではありますが、ほぼ同じような画像を載せ、画像の左に、四角で囲んだ枠を作りました。ここには引用の最初の鍵括弧(「)と、引用部の数文字を薄字で書いておき、さらに出典の最後のページ数と丸括弧閉じ())を書いておきました。
3枚目のプリントは、四角で囲んだ枠だけを書いておきました。
流れ
1枚目のプリント
- プリントを配付する
- 記名させる
- なぞったら持ってきなさい、と指示し、生徒になぞらせる
- なぞり終わった生徒をチェックする
- 2枚目のプリントを「レベルアップね」と言って渡す
2枚目のプリント
- できたら持ってこさせる
- 記名を確認する
- 出典を確認する(ただし、書けていない子が多い)
- 出典が書けていない場合には、赤で引用部の直後に丸括弧の始まり(()を書き、「1枚目を参考にしてごらん」と言って帰す
- 2枚目が完成した生徒には、引用のやり方と意義を書いたプリントと、3枚目を渡し、「読んでやってみてごらん」と言う
3枚目のプリント
- 時間が余った生徒に取り組ませる
- 実際には3枚目のプリントをする生徒は少なく、ほかの生徒が躓いているのを助けている場合が多かった
結果は
あれだけ混乱していた生徒たちが、まったく混乱はなく、しかも一生懸命取り組んでいたんですね。これはよかった。
特に2枚目に入ったときに、案の定、ちゃちゃっとやって「できた!」みたいに持ってきた生徒は、出典を書いていなくて残念ながら帰される、ということが何度かありました。
でもこれは想定内。
というか、こういう失敗をするだろうと思って、2枚目をつくっていたのです。しめしめ。
帰された生徒がいるのを見て、慎重に1枚目と見比べながら、「これがいるんじゃない」などと近くの生徒と相談しながら、めっちゃくちゃ考えてがんばって完成させていた生徒が多かったのです。これも期待通りだったけど、こんなに考えるのか、と思うくらい真剣に取り組んでいました。
ちなみに、このあと書かせたちっちゃいエッセイみたいなので、必ず引用してその部分についてコメントせよ、みたいな課題を出したんですが、提出してきた全生徒がきちんと引用し、出典も書けていました。うん、いい感じ。
確認のために配った引用の仕方と意義が書かれたプリントも、けっこうみんな真剣に読んでた。
やっぱり実際にやったあとだと、「ああ、こういうことか」という納得感があるんでしょうね。
まとめ
引用は技能です。技術、でもいい。とにかく習得可能なものだし、手続きが決まっていて、一度習得したら、マイナーチェンジはあるかもしれないけれど、でも基本的には一生使える技能です。
こういった技能は、知的に、楽しく、作業をさせるなかで習得させる必要があると思っています。
そのためにも、
なぞり→写し→自力
の流れは意識して、ほかの場面でも使っていきたいなあと思いました。
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